臨床工学技士が行うVA管理

透析を行うにあたってVascular access(VA)は重要な位置づけです。

VAはほとんどの透析患者が自己血管であり、VAトラブルが生じると透析が満足に行えない状態に陥りやすくなります。

臨床工学技士の約半数が血液浄化業務を専任で従事している・業務の割合がほとんどを占めている中でVAに接する機会が他職種と違い一番多いと思います。

日本臨床工学技士会から臨床工学技士のためのバスキュラーアクセス日常管理指針が発行されていることから臨床工学技士とVAの関わりは相当深いと考えられます。

今回は自分が臨床工学技士として慢性期維持透析患者のVA管理をどのように行っているのか紹介したいと思います。

 

臨床工学技士としてのVA管理の関わり

視診・聴診・触診

まず基本である視診・聴診・触診です。

基本であるがゆえに誰でも特別な道具を必要としませんが、解剖学的なことがわかっていなければただ見ただけ聞いただけになりがちです。

視診は文字の通り、VAに発赤や傷・かぶれ・化膿の有無などを見ていきます。
かぶれなどがある場合は固定のテープが肌にあっていない場合もありいつからかなども聞くようにしています。

聴診は聴診器を使用し吻合部から中枢むけて順番に当てていきます。

なんでも屋ME
聴診前にきちんと吻合部の場所と血管の走行を確認しておくことが重要!

吻合部は動脈と静脈を直接つないでいる為一番大きい音が聞こえます。
吻合部から中枢側へ行くにしたがって音は減弱していくのですが、なんらかの原因で吻合部と同等あるいはそれ以上の音が聞こえる場合があります。
この場合はその部位に狭窄や合流・分岐する血管といったものがあるのですが、吻合部の音を基準とすることでその変化がわかりやすくなります。
異常音としては高調音→狭窄音(教科書的には風切り音)→拍動音と狭窄の度合いによって変化していきます。

触診はVAの張り具合(虚脱しているあるいは固くなっているなど)・スリルの有無・凹みを見ます。
VAが閉塞あるいは高度狭窄していると狭窄部位より末梢側は固くなっており血管の弾力が感じられにくくなっています。
スリルもあればいいというわけではなく、どこでスリルが感じられているかが重要で吻合部よりもかなり離れた部位で感じられていたのなら前述の聴診でわかると思いますが、高調音あるいは狭窄音が聞かれていたと思います。

視診・聴診・触診はできれば患者さんにも毎日やってもらうように促しています。
聴診は聴診器の購入が必要な場合もあるため難しいですが、そのような場合は手を曲げて吻合部を耳に当ててもらい聞いてもらっています。
この時、もし吻合部の音を聞いて音がしないや弱くドクドクしているような音が聞こえたらすぐに病院へ来てもらうように説明をしています。

 

超音波画像診断装置

最近では主流になっていると思われる超音波画像診断装置(エコー)によるVA管理。

前述の臨床工学技士のためのバスキュラーアクセス日常管理指針でも取り上げられており、メーカーからは専用機が発売されたりとその重要性は高いです。
非侵襲でVA状態が把握できることが大きな利点ではありますが、装置が高価・操作者の技術に左右されるといった事もありまだ全国の透析施設で全て導入されているわけではないようです。

勤め先ではすべての患者に年1回はエコーを使ってVA状態を見るようにしています。
この取り組みの成果としては視診・聴診・触診で見逃されていた狭窄部の発見や自身の穿刺技術の向上などがありました。

見ている場所は上腕動脈のFV・RIと吻合部・穿刺部の評価ですが、必ず患者さんに「シャント(VA)の事で気になるところはありますか?」と声をかけるようにしています。

声をかけることで患者さんが普段どのくらいVAに対して関心を持っているのか・どんなことに疑問を抱いているのかをケアできるようにしています。

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穿刺場所の選定

VA狭窄の部位として穿刺部近傍や針先といった事があります。

理由としては頻回な穿刺・穿刺ミスなどにより生じた血腫が血管を圧迫・止血の際に過度の圧迫といった事が挙げられます。

穿刺ミスは穿刺者の技術不足もありますが、血管の走行や深さが原因の場合もあり一概に穿刺者のせいともいえないと思います。

また穿刺部位は基本的に局所麻酔テープが貼られているところに誘導されるため、大きく穿刺場所を変更することができない場合もあります。

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臨床工学技士は穿刺を任されているケースが大半!

そこで前述のエコーを使って適切な穿刺部位を提示し、患者さんへ理解してもらうように働きかけています。
適切な部位としては蛇行がなく血管までの到達深度が皮膚から5㎜以内であり、脱血側ならボリュームがあること・返血部なら弁など穿刺針からの血流の阻害になる物がない場所を選択するようにしています。

人工血管の場合はなるべくまんべんなく刺せるようにしたいため患者さんにも協力をお願いしています。

穿刺場所が変更になった・穿刺時の注意点が見つかったなどがあればVAマップを活用して他のスタッフと情報の共有が図れるようにします。

 

最後に

VAは患者・スタッフ・医師で管理していくものであり、スタッフに任せきり・医師に任せきりといった事がないようにしなければいけません。

特に重要なのがVAを持っている患者さん自身であり、VAの事はスタッフや医師に任せがちになってしまうことが多いです。

臨床工学技士は穿刺をすることが多いと思います。
その際に患者さんと良好な関係を気付いておくことで、患者⇔医療スタッフとのつなぎ役になりVAトラブルの予防や発見といった事が行えます。

臨床工学技士は機械だけ見てればいい・針だけさせればいいではいけないですよね!

 

参考文献

公益社団法人 日本臨床工学技士会,公益社団法人日本臨床工学技士会会誌[2020 No70],2020年9月[P53]

春口洋昭,バスキュラーアクセス超音波テキスト,医歯薬出版株式会社,2013年5月20日[P145]

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