AVGやAVFの狭窄指標となりうる?静的静脈圧とは!

最近のVA管理には超音波画像診断装置がかなり普及していることもあり、学会等の発表でもシャントエコー関連の発表はかなり多いです。

ですが、施設によってはパルスドプラ機能がないものや測定者の技術・人数から全患者を定期的にフォローできているというのは難しいのではないでしょうか。

勤め先では少人数ということもありなんとか全患者を定期的にフォローはしていますが、測定者の育成にはまだまだ力が及んでいません。

一定の技量を担保できて簡易的なスクリーニングが毎透析ごとにできたらな~と思っていたら、気になる狭窄指標を見つけたので調べてみました。

 

狭窄の指標?「静的静脈圧」

透析で必ずモニタリングされている項目の一つに、「静脈圧」というものがあります。
どの透析用監視装置でもトップ画面のどこかの表示にこの「静脈圧」が表示されていると思います。

普段透析を行っている最中(ポンプON)の状態を反映しているのが、動的静脈圧と呼ばれるものです。
動的静脈圧はシャントトラブルスコアリング(STS)にも指標としてあげられていますが、穿刺針の太さ(G)で変化します。
例えば同一穿刺部において、17Gと15Gでは同じ血流量に対して表示されている静脈圧の値は違います。

また、動的静脈圧は回路の形状・血流量にも影響されるので統一した評価というのはなかなか難しいです。

 

そこでK-DOQI・CSN・Vascular Access Societyのガイドラインで推奨されている「静的静脈圧(SVP:static venous pressure)」を測定することで、上記に示した影響を排除して評価を行うことが可能となります。

この静的静脈圧と呼ばれるものは、ポンプをOFFにした状態で測定するため回路などの影響を受けにくいとされています。

また、人工血管を使用したVA(AVG)の流出路狭窄の状態把握にも適している可能性が示唆されています。

 

測定方法

ここでは日本透析医学会のガイドライン(2011年版)からの方法を記します。

  1. 透析を開始し、回路内が血液に置き換わった時点で血液ポンプをとめる。
  2. 静脈チャンバーとダイアライザーの間をクランプする。
  3. クランプ後30秒後に安定した静脈圧を静的静脈圧として記録する。

上記方法で測定した静的静脈圧は動的静脈圧よりも流出静脈の狭窄を正確に反映すると言われています。
しかし、ガイドライン上の表記では「1-C」とエビデンスレベルとしては低めであり、「真の効果は推測する効果と結果的に異なる可能性がある。」と示されています。

対象はAVGだけなの?

ガイドラインで示されているのはAVGに対してですが、これはAVGの狭窄において好発部位とされる流出路狭窄を反映しやすい為だと思われます。

一般的にAVGでは穿刺と返血を一本の人工血管で行うわけですが、好発部位とされる静脈との吻合部以降までは側副路がない為、容易に静的静脈圧・動的静脈圧が変化します。

そのため、AVFのような自己静脈を用いたVAでは患者自身の血管状態によりますが、太さのある側副路もあるため静的静脈圧や動的静脈圧の変化が拾いにくく、狭窄位置によっては全く影響しない場合があるからだと考えられます。

静的静脈圧に関しては調べた限り関連文献が少なく、憶測となるのですが以下の様なAVFでは有用ではないかと思っています。

AVG以外にも向いていると思われるVA

なんでも屋ME
下手な図ですみません…
絵心をください。

上記は例ですが、狭窄部が返血部よりも中枢側にあればAVFでも同様に静的静脈圧を狭窄指標として用いることは可能と思われます。
ただし、返血部と狭窄部の間に太い側副路がある場合は側副路へ血流が流れることから狭窄指標としては適さないと考えられます。

上記例で言えば、二股にわかれている血管の狭窄部がない血管へ返血を行った場合も同様ですし、二股にわかれる手前を返血部とした場合も狭窄指標にはなりにくいでしょう。

 

正常値・異常値は?

これに関しては記述された文献が探せませんでした。

また、VAの形態や吻合箇所でも変わるため万人に対する正常値というものはないのかもしれません。

経験上ですが、AVFの場合は一桁~20前後mmHgが多く、肘付近での吻合では高値になっている傾向です。

なんでも屋ME
あくまで自分の経験上の話です。

このような特性から、患者個々の正常値・異常値を設定するべきと考えられます。

最近の透析用監視装置では、静的静脈圧のトレンドをグラフ表示してくれるので不自然な上昇が見られた場合はシャントエコーなどでフォローをすることが重要だと思います。

 

最後に

透析用監視装置や超音波画像診断装置などの進化により、様々な数値が継続的にモニタリング出来るようになってきました。

これら数値がどのような意味を持ち、患者の状態を反映してくれているのかを理解することで重篤な異常となる前に手を打つことができると思います。

臨床工学技士としてこれら数値の異常をいち早くスタッフと共有し、治療へつなげていけるかが腕の見せ所なのではないでしょうか?

 

 

参考文献
1)高橋 淳子 他, 人工血管内シャント(AVG)のモニタリングにおける静的静脈圧の有用性, 透析会誌43(2), 2010,171-176
2)バスキュラーアクセスガイドライン改訂・ワーキンググループ委員会,慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン,透析会誌44(9),2011,891

最新情報をチェックしよう!