病院内では様々な医療機器が稼働しており、そのすべての動作を事細かに理解している人はかなり少ないと思います。
特に、専門的な医療機器であればその動作は業務に関わっている人でないとわかりません。
そんな時に、サポートとしてよく入ってくれるのが、メーカーによる「立ち会い」です。
立ち会いによる医療機器の導入や保守、使用中のトラブル対応など「貸出し」も含めて病院内では頻繁に見られる光景です。
しかし、近年はその在り方について、制度的な整理と適正化の流れが加速しています。
今回は、厚生労働省通知・公正取引協議会の指針・医療機器業公正取引協議会(JFTC-MDI)による実務基準をもとに、色々と調べてみました。
メーカー・業者による「立ち会い」とは
メーカー及び業者の「医療の国家資格を持っていない」人間も含まれた人達が、現場で下記のようなサポートを行います。
- 新規納入機器の使用説明
- 機器修理後の動作確認
- 試用機器の操作指導
- 担当医師・看護師の交代に伴う再説明
- 災害・緊急時のサポート
これらサポートは無制限に行えるものではなく、ルールが定められています。
公正取引協議会の自主基準(JFTC-MDI)による制限
- 同一の手技・同一診療科に対する立ち会いは、最大4回までが無償対応の上限
- 上限を超える場合や長期間にわたる対応は、有償契約に移行すべき
出典
JFTC-MDIガイドライン:https://www.jftc-mdi.jp/for_medical/
厚労省通知(2024年2月2日)による制度整理
- 無償の立ち会いは「必要最小限」に限定されるべき
- 新規導入時1回+修理後1回程度が適当
- 反復的・定常的な立ち会いは有償対応が原則
出典
厚労省通知:https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb3547&dataType=1
メーカー・業者からの「貸出し」対応とは
医療機器の貸出しは、以下のような目的と内容で一時的に医療機器を無償提供する行為です。
目的区分 | 内容例 | 無償期間 |
試用 「デモ」と呼ばれる行為がこれにあたります。 | 有効性、安全性、操作性の確認(臨床評価) | 1ヶ月以内 臨床使用は6ヶ月以内 |
緊急対応 | 故障・災害時の代替対応 | 緊急時は、事態の解消および災害期間終了まで 事故・故障は、原則3ヶ月以内(保証期間内に限る) ※自主回収など関連放棄に関わる場合は修理完了まで |
教育 | 研修・実習等での利用 | 1ヶ月程度?(要確認) |
研究 | 公益性のある非営利研究等での貸出し | 12ヶ月以内 |
JFTC-MDIによる貸出しの原則
- 医療機関と目的・期間・責任者・設置場所などを文書で明確化(「貸出確認書」の作成)
- 機器の所有権は業者にある旨を明示
- 使用終了後は速やかに返却すること
厚生労働省の通知と公正取引協議会どちらを優先?
結論としては、「厚生労働省の通知」が優先とされます。
理由としては、厚生労働省の通知は「行政機関による公的な制度指針(準法的根拠)とされているからです。
厚生労働省は、保険診療や医療機関運営におけるガイドラインを示す行政機関であり、その通知や通達は医療機関にとって実務上のルール(事実上の規範)として機能します。
特に2025年2月2日の通知は、医療費適正化や医療機器に関する取引慣行の見直しを背景とした全国的な対応方針であり、自治体や審査機関もこれに準じた判断を行います。

公正取引協議会の役目って?
JFTC-MDI(医療機器業公正取引協議会)の基準=業界側の自主ルール
業界内の健全な競争を確保する目的で、医療機器メーカー・販売業者が守るべき「営業活動の倫理規範」を定めたものです。
医療機関側に法的な拘束力はないものの、メーカー・業者側の対応(例:無償立ち会いは4回まで等)を理解するうえでは重要な目安となります。
比較項目 | 厚生労働省通知 | 公正取引協議会自主基準 |
位置付け | 行政通知(準法的) | 業界の自主ルール |
法的拘束力 | 高い(行政的指導の対象) | なし(業者行動のガイドライン) |
優先順位 | 優先 | 参考程度 |
医療機関での対応判断基準 | 準拠すべき | 補足的に利用 |
立ち会い回数の判断は?
厚生労働省の通知は、「必要最小限。例:原則1回(導入時)+1回(修理後)」
公正取引協議会では、「同一診療科・同一手技で最大4回まで」
医療機関としては、厚生労働省の通知を基本としつつ、公正取引協議会基準は“上限目安”として参考にとどめる運用が良いかもしれません。



業者側から、「4回まで大丈夫!」と言われても制度上の「必要最小限」を超えるか判断が必要。基本は厚生労働省の通知基準が安全。
臨床工学技士としての実務ポイント
医療機器管理を担う臨床工学技士にとって、立ち会いや貸出しの対応は日常的に発生する重要な業務です。
制度に準拠したうえで、以下のような点を意識することが求められます。
立ち会いや貸出しの目的を明確化し、「制度上妥当な理由か」を判断する。
無償立ち会いが4回以内か、または必要最小限を超えていないかを記録で管理する。
保守契約書や使用契約の範囲内であるか、事務部門とも連携して確認
「立会い確認書」「貸出し確認書」などを確実に受け取り、医療機関内で保管。→これは電子的に保管でもOKだと思います。
安易な立ち会い依存から脱却し、医療従事者への教育・トラブル対応能力の強化に取り組む。
最後に
医療機器の立ち会いや貸出しは、医療安全のための有効な支援である一方、過度な依頼や制度外の無償対応は望ましくありません。
制度に基づく適正な対応を徹底し、記録の明確化と契約の確認を通じて、効率的で持続可能な医療機器運用を実現することが、臨床工学技士として求められているのではないでしょうか。
参考文献(リンク)
・厚生労働省通知(2024年2月2日)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb3547&dataType=1
・JFTC-MDI「医療機関の皆さまへ」ページ(立ち会い・貸出し基準など)
https://www.jftc-mdi.jp/for_medical/#sec02
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