日本臨床工学技士会より、行政情報のお知らせとして「臨床研究法施行規則の施行等について」について(通知)がありました。

研究をいろいろやっている身としては、これ知っとかなきゃいけない気がすると思い、いろいろ調べてみました。
調べてみると、臨床工学技士が関わる研究も対象になることがわかりました。
臨床研究とは?
この「臨床研究法」で規定する、「臨床研究」って何かということですが、
「人を対象にして医薬品や医療機器の有効性・安全性を評価する研究」を指します。

患者やボランティアが関わる場合に限って有効。
例
・臨床データを用いたダイアライザの性能検証
・呼吸器を装着した患者の換気設定を比較する研究
・医療機器メーカーと連携した臨床現場での試用評価
シュミレーターやテスト肺といった、「人」を介さないものであれば、この法の対象外となります。
法改正での変化
2025年に行われた改正での変化は、下記。
統括管理者制度
研究全体の統括をする「統括管理者」を明確に定義しており、研究責任医師とは別に法人や団体が担うケースも可能となりました。これにより多施設での合同研究といった医療機関の横断した研究内容が運営しやすくなりました。
書式の統一と電子ファイル保存
厚労省が提示する統一書式が示され、これに基づいて申請や報告を行う必要があります。これらは電子ファイルによる提出や保存が可能となっています。
利益相反(COI)の管理
製薬会社や医療機器メーカーと関係がある研究者は、資金提供や役職の有無を申告する義務が課せられます。
これは研究に関わっている場合、臨床工学技士も必須になります。



なかなかそのような臨床工学技士はいなさそうだけど・・・
臨床工学技士が注意するべき点
臨床工学技士が注意するべき点としては下記があります。
対象となる研究
人が介入しているか、診療情報が使用されているか?
役割の明記
研究分担者として計画書に記載されているか?
研修の義務
倫理・研究法に関する教育研修の受講が済んでいるか?
COIの申告
企業からの報酬・支援・共同研究などが対象になっているか?
特に研修の義務においては、「倫理・研究法に関する教育研修受講」を指し、臨床研究に関わる者が法令・倫理・手順等を理解し、適正に研究を遂行できるようにするための研修となっています。
日本臨床工学技士会では「学術研究の進め方に関する研修会」が該当しそうです。
ただし、研究に一時的・間接的に関与する者(例:通常の診療行為しか行わない外来看護師など)は、施設の判断で「研修不要」とされる場合も。
この扱いは統括管理者が責任をもって判断・記録する必要があります。
実際の研究例で必要な項目
実際によく行われている、「ダイアライザの性能評価研究」を例にしてみました。
区分 | 項目 | 必須内容・対応 |
---|---|---|
① 研究体制 | 統括管理者 | 法人または個人(研究責任医師と同一でも可)。研究全体の責任者として様式提出 |
研究責任医師 | 実施医療機関に属し、患者対応・同意取得を行う者 | |
研究分担者(臨床工学技士など) | 業務分担内容を研究計画書に記載。分担医師リスト(書式1)提出 | |
② 計画書類 | 研究計画書 | ダイアライザの比較内容、エンドポイント、対象症例数、除外基準、安全管理等を記載 |
説明文書・同意文書 | 医療機器であるダイアライザの特徴とリスクを含めて説明 | |
利益相反管理様式(様式A〜E) | 企業との関係性、研究支援、寄附金、特許等を申告 | |
モニタリング・監査計画 | 法規に基づき実施(例:被験者数に応じて監査の実施) | |
③ 倫理・審査 | 認定臨床研究審査委員会(CRB)への申請 | 書式2(新規審査依頼書)と関連書類を提出 |
倫理教育研修受講 | 研究責任者・分担者(CE含む)が受講済みであること | |
④ 実施中の報告 | 定期報告書(書式5) | 進捗、対象者数、有害事象、利益相反の再確認などを記載 |
疾病等報告(書式8) | ダイアライザ使用に関連する健康被害や不適合が発生した場合に即時報告 | |
⑤ 終了時 | 終了通知書(書式12) | 研究終了時に提出 |
⑥ 書式管理 | 統一書式の使用 | 書式1〜15および参考書式を適用し、電子的保存も可能 |



結構大変そう・・・
書式に関して
臨床研究法の統一書式
最後に
おそらくこの法改正を対応できる施設というのはまだまだ限られていると思いますし、学会なども発表に関しては特に審査していないように感じます。
ですが、今後は研修などの受講証明が必須になったりするのかもしれません。
まずは自施設でできる範囲で、この法改正に近づけたやり方を行なっていくのが良さそうかなと思いました。
また、「自分は研究者じゃないから関係ない」と思いがちですが、呼吸器、血液浄化装置、心臓補助装置など、臨床で使用される医療機器の使用状況を把握しているのは臨床工学技士です。
今後は、「技術的な使用経験」に加えて「臨床研究に基づく根拠」を示せる力がますます重要になるのではないでしょうか。
参考文献
厚生労働省.「臨床研究法の統一書式について」事務連絡(2025年5月15日).
厚生労働省医政局研究開発政策課.「臨床研究法施行規則の施行等について」(2025年5月15日).
厚生労働省.「臨床研究法における臨床研究の利益相反管理について」通知(2024年9月).
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